「噛み合わせ」など間接的要因と歯周病
正しくない噛み合わせは歯周病を促進する!?
歯周病の原因には、直接的要因である歯周病菌だけでなく、さまざまな間接的要因があります。そのひとつが「噛み合わせ」です。
噛み合わせが悪いと、ものをよく噛めないなどの口内の症状だけでなく、耳鳴りやめまい、頭痛、肩こりなど、さまざまな症状が現れ、ひどくなると顎関節症を発症したり、歯並びが悪くなることもあります。歯周病もそのひとつです。
歯の汚れは食べものをよく噛んだり、歯と歯がぶつかることである程度自然に落ちるようになっていますが、噛み合わせが悪いと歯磨きの際に磨き残しが出やすく、プラークがたまって歯周病や虫歯になりやすくなります。
さらに、噛み合わせが悪いことで噛む力がそれぞれの歯に均一にかからず、噛んでいる歯だけに大きな負担がかかり、骨がダメージを受けやすくなって歯周病の進行が早まる、といわれます。
噛み合わせは、上の歯と下の歯が合わさって形づくられ、「噛む」という動きは頭蓋骨と下あごをつないでいる「咀嚼筋(そしゃくきん)」でおこなわれます。咀嚼筋は、硬い食べものをかみ砕くときにはたらく「咬筋(こうきん)」や、下あごを引き上げたり、後ろに引く「側頭筋」、ほかに外側翼突筋、内側翼突筋など、咀嚼運動をおこなうときに作用する筋の総称です。
下あごの運動をスムーズにおこない、自由に咀嚼、嚥下、発語をおこなうためには、顎関節、歯、歯周組織、咀嚼筋などの口まわりの組織が周囲の骨や筋肉とバランスをとりながら協調してはたらくことが必要です。しかし、噛み合わせが悪いと歯周病を促進し、歯周病になると歯周組織が侵されて噛み合わせにも
影響が出るなど、噛み合わせと歯周病は互いに悪影響を及ぼす関係です。歯周病が進行している人の場合、噛み合わせの悪さから運動機能にも問題を起こしていることが多く、歯周病治療のためにも、噛み合わせを正しておくことが大切です。
正常咬合と不正咬合とは?
一般には「歯並び」と同じような意味でとらえられることも多い「噛み合わせ」ですが、歯並びと噛み合わせはまったく異なる概念です。歯並びは、1本1本の歯が歯槽骨の上に並んでいる状態、つまり「歯列」のことをいい、噛み合わせは、上あごの歯列と下あごの歯列が合わさる「咬合」のことを指します。
たとえば、歯並び(歯列)があまりよくなくても、歯周病や咀嚼障害などがなく、噛み合わせ(咬合)は悪くない人もいますし、反対に、歯列矯正や補綴(ほてつ)治療(被せものなどの歯科治療)できれいな歯並びをしていても、筋肉や顎関節とうまく調和せず、噛み合わせや嚥下、発語などの機能に問題を抱えている人もいます。上下の歯がバランスよく接し、しっかりと噛み合うのが、よい噛み合わせの基本です。
「正しい噛み合わせ」の条件には、さまざまなものがありますが、
基本は次の3点です。
・上下の歯は「1歯対2歯」の関係で、交互に隙間なく噛み合う
・上下の前歯の中心のラインが一致している
・上の歯が、下の前歯の外に2ミリほど被さること
ただし、実際にはこの条件を満たす噛み合わせをもつ人は多くはいません。そのため、このような理想的な噛み合わせは「仮想正常咬合」と呼ばれることもあります。
なお、何らかの要因によって歯や歯周組織の発育・形態・機能に異常があり、上下の歯がきちんと噛み合っていない状態を「不正咬合」といいます。
不正咬合のいろいろ
一般に〝八重歯〟とか〝乱ぐい歯〟といわれている状態。歯の幅は標準的な大きさなのにあごが小さい場合や、逆にあごに対して歯の幅が大きい場合などに起こります。
いわゆる〝出っ歯〟で、奥歯を合わせたときに上の前歯が前方に突き出している状態。上の前歯が傾斜して突出している場合と、下あごに比べて上あごが大きい場合があります。
いわゆる〝うけ口〟といわれる状態で、「反対咬合」ともいいます。下の前歯が上の前歯より前に出ているために、うまく噛めないだけでなく、発音にも影響があります。
奥歯では噛んでいても、上下の前歯は接触せずに上下の歯の間に隙間ができた状態。前歯で食べものを噛み切れないだけでなく、舌が出てサ行やタ行の正しい発音ができません。
上あごの真ん中の歯に隙間がある〝すきっ歯〟のこと。原因はさまざまですが、正しい発音ができなかったり、磨き残しにもつながり、歯周病や虫歯のリスクが高まります。
上下の歯を噛み合わせたときに、どこかで上下の歯列が交叉している状態で、「クロスバイト」や「すれ違い咬合」とも呼ばれます。
前歯の噛み合わせが深く、下の前歯が上の前歯に覆われている状態。下あご全体が後方へ押し込められて運動が大きく制限されるため、顎関節症になりやすいといわれます。
不正咬合のトラブル「咬合性外傷」って?
不正咬合によるトラブルの中でも、もっとも多くみられるのが「咬合性外傷」です。
咬合性外傷とは、名前のとおり噛み合わせが原因で、口の中や周囲の組織が傷ついた状態です。特定の歯に過度の力(咬合力)がかかり、歯周組織(おもに歯を支えている歯槽骨や歯ぐき、歯根の表面についているセメント質や歯根膜、あごの関節など)が損なわれます。
咬合性外傷の症状としてまず挙げられるのが、噛んだときの歯の痛みです。歯の摩耗(まもう)や動揺、歯ぐきの腫れ、知覚過敏、詰め物や被せ物が外れるといった症状もよくみられ、ひどくなると痛みでものが噛めなくなることもあります。
また、咬合性外傷とよく似た言葉に「外傷性咬合」がありますが、これは咬合性外傷を起こしやすい噛み合わせのことです。外傷性咬合が原因となって歯周病を引き起こすことはありませんが、いったん歯周病になると症状を進行させる重要な因子のひとつです。
外傷性咬合を修正し、安定した噛み合わせを保つことで、咬合性外傷によって悪化した歯周組織の破壊を軽減することができます。
噛み合わせがからだに及ぼすさまざまな影響
噛み合わせとともに歯周病の大きな要因となるのが、「からだの歪(ゆが)み」です。
からだの歪みというと骨盤が有名ですが、腰だけでなくスマートフォンやPCを長時間見るためにうつむく姿勢が続き、頸椎がまっすぐになってしまう「ストレートネック」や、左右の脚の長さが異なる「脚長差」など、さまざまな歪みがあります。
私たちのからだには、200個以上の骨があり、それぞれが軟骨や筋肉、腱などでつながっているため、ひとつの骨がずれたり、左右がアンバランスになることでからだ全体が歪み、さまざまな影響を及ぼします。
たとえば、噛み合わせがずれると、上あごと下あごがしっかり合わなくなり、噛みにくいところでは自然と噛まなくなって咀嚼筋への力のかかり方が不均等になり、噛みグセが生じます。
このクセが続き、左右の偏りが大きいと、次第に頭の軸が傾いて頚椎がずれます。
からだの中でもっとも上にあり、重い頭部のバランスが不安定になると、からだは無意識にバランスをとって、なんとかそれを正そうとします。
噛み合わせが及ぼすからだの不具合
・下顎のずれ
・頚椎のずれ
・肩関節のずれ
・胸椎のずれ
・腰椎のずれ
・股関節のずれ
不正咬合が発生(噛み合わせ)↠顎関節がずれる↠頚椎がずれる↠胸椎がずれる↠肩関節がずれる↠腰椎がずれる↠骨盤・仙骨関節がずれる↠股関節がずれる↠自律神経のバランスが乱れる 。
すると今度はあごから肩につながる広頚筋に負担がかかり、緊張が生じます。
さらに、あごの位置がずれることで首の後ろの筋肉も緊張して首の骨を圧迫し……と、次々とバランスを崩し、背骨、坐骨、ひざへと連鎖反応を起こして歪みや痛みといったさまざまな問題につながるのです。そして、筋肉に過度な力がかかり続けると、やがては骨格まで歪み始め、最終的には神経や内臓にまでダメージを与えてしまいます。
このように、噛み合わせの悪さが原因となっているからだのさまざまなトラブルは、近年頭痛や肩こり、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、眼の痛み、腰痛、手足のしびれ、膝関節痛、イライラなど、実に多様です。
最近では、自律神経のバランスが乱れることが原因で心身にさまざまな症状が現れる「自律神経失調症」も、不正咬合のひとつとされています。あごのズレや頸椎の位置の異常が椎骨動脈の血行不良のもととなり、自律神経をつかさどる視床下部がダメージを受けて自律神経のバランスがくずれてしまうことが、原因のひとつと考えられているためです。
自律神経失調症は、神経質な性格やまじめで几帳面な人に現れることが多く、ストレスを感じると歯を食いしばるクセのある人が少なくないことも、噛み合わせと自律神経失調症には深い関係があることを示しているといわれます。
「食いしばり」も歯周病を悪化させる
噛み合わせとともに歯周病の大きな間接的要因となっているのが「食いしばり」です。人は普通、ものを噛むとき以外は歯と歯を浮かせていますが、食いしばりがある人は常に力が入っているため、噛み合わせの力に対抗するように骨が発達し、噛み合わせがずれてしまいます。そして歯周病の原因となり、悪化を招くのです。
「食いしばり」というと、重い荷物を持ち上げるときのように、全身に力を入れて思いきり奥歯を噛みしめる様子を思い浮かべますが、実は、軽く歯を接触させているだけで歯には相当な力がかかっています。
歯は、人体の中でももっとも強い力が加わる部位で、歯を食いしばると奥歯には平均で60㎏、人によっては100㎏もの力が加わることもあるといわれます。
ただしそれは食事の間など、1日の中でもわずかな間のことだけです。会話や食事のときに起こる歯の上下の接触は、1日平均20分程度といわれ、何もしていないときは上下の歯は接触していません。
無意識に食いしばる「クレンチング症候群」
ところが、ストレスなどが原因で、無意識に歯を強く食いしばってしまうことがクセになっている人がいます。このクセを「クレンチング症候群」といいますが、無意識に食いしばりを続けていると、歯やあごへ大きな負担がかかり、歯の摩耗や亀裂(きれつ)、破(は)折(せつ)、歯の動揺をはじめ、さまざまなトラブルを起こすようになります。ひどくなると咬筋が発達してエラのようになり、顔貌が変化することもあります(次ページイラスト参照)。
当然、歯周病の発生や悪化を招くこともわかっているため、痛みや違和感がある場合は早めの治療が必要です。
ただし、初期の段階や軽度の場合は自分で予防・改善することが可能なので、自分のクセを自覚して「上下の歯が接触しないことを常に意識する」「肩・首まわりの筋肉をストレッチなどでほぐす」「口の中をマッサージする」などの方法を続けてみましょう。
睡眠中の食いしばりの治療には、上下の歯が接触しないように、マウスピースをつけることで歯を保護します。
クレンチング症候群をセルフチェックしよう!
クレンチング症候群は、自覚症状のないことがほとんどですが、次のようなことが思いあたる場合は要注意です。
・上下の歯の噛み合わせ面がすり減って平らになっていないか
・歯と歯肉の境目に削り取られたような傷がないか
・舌の側面に歯形がついていないか
・歯に接する頬の内側に白い線がないか
・耳の穴から1センチほど手前にあるあごの関節を押すと痛みがないか
・あごのエラの部分の筋肉に痛みを感じないか
クレンチングより怖い、歯列接触癖(THC)とは?
また、クレンチング症候群ほどではないものの、何かの作業をしているときに長時間上下の歯を接触させている人がいます。この弱い歯の接触を含めたこのクセは、「歯列接触癖(TCH)」と呼ばれます。
THC(Tooth Contact Habit)は東京医科歯科大学の研究者らが命名、発表したもので、同大学の調査では、顎関節症の患者の77%、一般の会社員の21%、中学生の11・4%(男性)、24・5%(女性)にTCHがみられたといいます。
「歯の接触程度ならたいした問題はないだろう」と思いがちですが、先に述べたように、軽く接触するだけで歯には相当な負担がかかっています。しかも、強い食いしばりは長くは続きませんが、歯の接触は、気づかないうちにずっと続いてしまうこともあります。
THCが引き起こす症状
歯と歯が接触し、筋肉が緊張する。血管が収縮して血流量が低下。接触が長時間にわたれば筋肉は疲労し、肩こりやあごの痛み、歯や舌の痛み、歯周病の悪化などを引き起こす。
THCのセルフチェックしよう!
□姿勢を正してまっすぐ前を向き、目を閉じ、唇を軽く閉じたまま、上下の歯が接触しないように軽く離す。
この状態で、口やあごのまわりに違和感があったり、5分間そのままで維持できそうにないようであれば、TCHの可能性が高いと考えられます。
TCHへの対策
□普段から歯を合わさないように意識することが肝心。無意識にTCHをしてしまう場所に「歯を合わせない」と書いた張り紙をする。
しかし、この治療はセルフケアが主体となるため、根気が必要です。TCHはストレスが大きな原因として考えられますので、ストレス発散ができる環境をつくることも大切です。
食いしばりの治療にボトックス注射をおこなう「ボトックス治療」と、軽度高気圧濃縮酸素環境の酸素ルームの併用が挙げられます。ボトックス注射で咬筋の緊張をやわらげ、かつ酸素ルームでの血流促進効果や筋肉疲労回復効果により、食いしばりだけでなく、歯周病の改善に有効性があるとされています。
第3の歯科疾患と呼ばれる「顎関節症」
顎関節症は、「あごが痛む」、「口が大きく開かない」、「口を開くときに耳のつけ根のあたりで音がする」など、顎関節や周囲の筋肉に痛みや動きの異常などの症状があり、そのため硬いものが食べられない、大きなものが食べにくい、また、あごの音が煩(わずら)わしいなどの不便が起こる病気です。原因はさまざまですが、今や歯周病や虫歯と並ぶ〝第3の歯科疾患〟ともいわれ、学校歯科検診にも取り入れられています。患者は女性に多く、10代後半から増加して20〜30代で最大となり、その後は年齢とともに減少します。
顎関節は、頭蓋骨とあごの骨(下顎骨)をつなぐ関節で、耳のすぐ前に位置し、左右2カ所の関節が同時に動いてあごを動かしています。関節の中でももっとも複雑な動きをするもののひとつで、蝶番のように開閉するだけでなく、前後左右にずらすこともでき、咀嚼中は大きな圧力がかかることもあります。
顎関節には「関節円板」と呼ばれる結合組織があり、頭蓋骨と下顎骨がこすれ合わないよう、クッションの役割をしています。
・関節円板が前方にずれて下顎頭にひっかかり「カクン」と音が出る。
・関節円板がずれてひっかかりが強く、下顎頭の動きが妨げられ、口が開かなくなる。
顎関節症は生活習慣病
顎関節が正常な場合、上下の前歯の間に人差し指・中指・薬指の3本を縦に揃えて口に入れることができますが、顎関節症の人は通常ここまで口が開きません。また、顎関節には痛みがないものの、下あごを動かすと筋肉がうまくはたらかなくなり、口を開けようとすると頬やこめかみの筋肉が痛んだり、あるいは口を開けようとすると顎関節が痛むなど、症状もさまざまです。さらに、わずかながら顎関節を形成している骨が変形する場合もありますが、これは病歴が長かったり高齢者に多くみられる症状です。このほかにも、頭痛や咀嚼筋の圧痛、首と肩の痛みとこわばり、めまい、耳の痛み、睡眠障害などを起こします。
顎関節症は、長らく「噛み合わせの悪さ」が原因と考えられていました。しかし、現在は理由をひとつに絞ることができない「多因子病因説」が優勢です。
顎関節症のおもな要因として、筋肉の痛みと緊張、歯の食いしばり、歯ぎしり、遺伝性の骨の病気などの全身疾患、感染症などのほか、運動不足、ストレス、姿勢の悪さ、睡眠障害、歯の喪失による噛み合わせの問題など、まさに生活習慣病ともいえます。
初期の顎関節症をセルフケアしよう!
・咬筋マッサージ
・側頭筋マッサージ
・口を開けるストレッチ
呼吸機能を改善をする装置「SPP」
歯科においては オーラルアピアランス(OA)という口腔内に入れる装置を作成することがあります。一般的なのは、 歯ぎしり対策や 顎関節症の治療時に作製されるスプリントと呼ばれるものです。さらに、医科と連携し睡眠時無呼吸症候群の治療時に使用される、スリープスプリントも最近増えてきている装置です。これらのOAは健康保険の適応となっているため使い易いのが特徴です。
そのほかにスポーツの時にいれるスポーツマウスピース、歯列矯正のために使用するアライナーや拡大床とよばれる矯正装置、虫歯予防のために使用される3DSと呼ばれる除菌治療など、多種多様なOAが歯科医院で作成されています。
さらに、呼吸を改善するSPP(Super Parabola Plate)という装置があります。日本歯科大学名誉教授丸茂義二先生が考案されたもので、特殊なトレーニングを受けた歯科医師がいる歯科医院でしか制作できませんが、舌骨という骨に注目し、舌骨の位置改善によって、呼吸機能の向上を目指した装置です。
舌骨は舌根の下、顎の真下に位置し、U字形で、ほかの骨と関節しない独立した骨で、頚の舌骨上筋群と舌骨下筋群に付着しています。この筋群は、胸膜や呼吸筋の横隔膜とも連結し呼吸機能への影響を及ぼすのです。
低位舌といって舌が正常な位置よりも低い位置にあると、ドライマウスや滑舌が悪いなど口腔機能の低下がみられ、呼吸がしにくくなります。
この装置を入れることで、口腔内から見て相対的に低位にあった舌が適切な位置に移動、それによって、舌骨、呼吸筋 呼吸補助筋が活動し、呼吸が改善するのです。呼吸器系で、音をつくり出す構造は、この舌骨により決まります。
呼吸にはさまざまな筋肉が協調してはたらき、空気を吸うときは横隔膜や外肋間筋が収縮し、胸郭が膨らみ肺の中に空気が入り込みます。
呼吸の質をよくすると、血液の中の酸素飽和度が上昇し、肺活量が増えて、からだを有益な状態をもたらします。
SPPの効果としては、姿勢や睡眠の改善もあり、姿勢は顎関節症に関する諸症状の食いしばりや歯ぎしりの改善に関与し、睡眠時無呼吸症候群にも及びます。
ボトックス治療で食いしばりや顎関節症を改善
歯や歯ぐきに痛みがなくても、寝ているときの歯ぎしりや、歯のすり減りによる噛み合わせの不具合は、全身にさまざまな悪影響を与えます。歯ぎしりや歯のすり減りの原因は、噛む力が強すぎることが原因といわれます。また、なかなか治らない出血や歯ぐきの腫れ、入れ歯の不調などは、咬筋が原因のことが多いようです。
そこで、歯を食いしばる力を弱める方法として、ボトックス注射を推奨しています。
ボトックス治療(ボツリヌストキシン治療)に使われるボツリヌストキシンは、ボツリヌス菌のつくり出すボツリヌス毒素という天然のたんぱく質で、筋肉の収縮を弱めるはたらきがあります。ボツリヌストキシンをごく微量含有する筋弛緩作用のある薬剤を、緊張している筋肉に注入することでその筋肉をリラックスさせる方法です。
もちろん、毒素といっても菌そのものを注射するわけでなく、天然のたんぱく質からできた毒素を分解・生成したもので、ボツリヌス菌の菌体やその成分などは一切含まれず、少量のため、副作用をきたすことはありません。
最近では、シワ取りなどの美容術として有名ですが、ボツリヌス毒素が治療に用いられたのは1970年代後半で、アメリカで斜視の治療に用いられたことが始まりでした。
強い噛みしめには、あごまわりの筋肉(咬筋)が大きく影響し、噛みしめを弱めるには咬筋の緊張をほぐすことが必要ですが、「噛む」という行為は無意識でおこなわれているため、自分で弱くすることはできません。
そこで、噛みしめが強すぎる場合などにはボツリヌストキシン注射によって注射した部位の筋肉をはたらかないようにすることで、強すぎる筋肉を緩め、食いしばりや歯ぎしり、顎関節症などの改善に効果を上げています。
ボトックス治療と整体のコラボで思わぬ成果!
最近では、ボトックス治療をおこなう歯科医院もずいぶんと増えてきましたが、私の医院では、ボトックス治療と、噛み合わせを取る前に整体の先生に来ていただき、全身を矯正してもらうことにしています。
きっかけは、噛み合わせをチェックする咬合調整に疑問をもったことが始まりです。多くの人が、歯科医院で被せものや詰めものを装着する際に、赤い咬合紙(カーボン紙)を「カチカチしてください」といわれて、噛み合わせを調整した経験があると思います。これは、咬合紙の色のつき具合で咬合力が均等かどうか、上下の歯が強くあたっている部分はないかをチェックする検査です。
歯科医は患者の普段どおりの噛み方でチェックしますが、もし患者の上顎骨に対する下顎骨の位置や頚椎がゆがんでいて、間違った噛み合わせで噛んでいたとしたら、間違った位置で調整していることになります。
そのため、この咬合調整が顎関節症の原因となり、万病のもととなる、という歯科医もいるほどです。また、患者にとっても自分のからだの歪みを指摘されて日常生活の中で気をつけたり生活習慣を変えるヒントになることもあるようです。
子どもの「口ぽかん」の治療にも有効
また、このコラボでは思わぬ効果も現れました。たとえば、以前から肩こりと食いしばりに悩まされ、整体に通っても肩甲骨に手が入らないため、施術がなかなかうまくいかなかった人に、背中と肩にボトックスを注射したところ、楽に施術を受けられるようになったのです。筋肉が緩んだ結果、すんなり手が入るようになったのでしょう。
また、朝起きるとあごが痛み、口を開けると〝ガクン〟としてきた、というお子さんがいて診たところ、噛む力が強かったため、口が開いていわゆる〝口ぽかん〟の状態でした。
口ポカンは口呼吸を促し、歯並びや骨格が悪くなるだけでなく、酸素を十分に取り込むことができないために、睡眠が不十分になりがちで、集中力も散漫になります。
高学年になってくると確実に記憶力に差が出て、学力低下をきたし、口呼吸が慢性化すると認知症の発症までつながる可能性があるのです。
そこで、整体の先生と一緒に顎関節のあたりから動かすトレーニングをすることで、噛みしめと口呼吸の改善がみられました。
自宅でできる酸素を取り入れるためのストレッチ
・足は肩幅に広げ、膝は軽く曲げて立つ。 両手を胸の前で軽く組む
・鼻から息を吸いながら、組んだ手を前へ伸ばしていく。 背中は後ろへそらす (肩甲骨のあいだあたりの筋肉がぐっと伸びる感じを意識する)
・思い切り吸いきったら、今度はゆっくり息を吐きながら手を胸に引き寄せていく
不妊症の人が酸素を吸収する効果
肩こり、冷え性、生理痛、生理不順、便秘などの改善。レオロジ―効果でからだの歪みが矯正される。