歯周病は成人の8割が罹患している国民病
歯周病は世界でもっとも患者数の多い感染症
歯周病は、歯を支える歯ぐき(歯肉)が炎症を起こし、次第に歯槽骨が壊され、最終的には歯が抜け落ちてしまう病気です。世界でもっとも患者数が多い感染症といわれ、日本でも歯肉炎と歯周病疾患で治療を受けている人はおよそ400万人(厚労省2017年患者調査による)いるとされ、40歳を超えると約8割がかかっている国民病といってもおかしくない病気です。
一度かかると自然に治ることはありません。虫歯とともに日本人が歯を失う二大原因のひとつで、若いうちは虫歯による喪失が多いものの40代後半からは歯周病のほうが多くなり、全体として歯を失う原因の第1位となっています。
さらに、炎症が続くと歯周病菌や菌の出す毒素が血流に乗って全身に運ばれ、さまざまな疾患を引き起こすともいわれています。また、年代が上がるほど症状が進行した人の割合が
増え、45歳以上になるとセルフケアだけでは回復が見込めない状態の人が3割を超えるなど、中高年にとっては身近で恐ろしい病気となっています。
静かに進行するサイレントディジーズ(沈黙の病気)
歯周病がこれほど多くの人を悩ませている大きな要因に、痛みなどの自覚症状が少なく早期発見が難しいため、気づいたときには重症化していることが多い、ということがあります。そのため、歯周病は「サイレントディジーズ(Silent disease:沈黙の病気)」とも呼ばれます。
初期の段階ではなかなか気づきにくい病期です。
なお、歯周病は歯周組織に起きる病変の総称で、正確には「歯肉炎」や「歯周炎」、「歯槽膿漏」に分かれます。炎症が歯ぐきにのみ見られる状態を「歯肉炎」、炎症が進み、歯ぐきから歯槽骨、歯根膜にまで広がった状態を「歯周炎」といいます。
慢性の歯肉炎がさらに進んで炎症がひどくなり、歯ぐきが化膿してしまった状態は「歯槽膿漏」と呼ばれ、ひどい痛みと口臭があります。
日本臨床歯周病学会では、歯周病のセルフチェックとして、以下の症状を挙げています。
歯周病をセルフチェックしよう!
【チェック項目】
□朝起きたとき、口の中がネバネバする
□歯磨きをすると出血する
□口臭が気になる
□歯肉が痛む、むずがゆい
□歯ぐきが赤く腫れている(健康な歯肉はピンク色で引き締まっている)
□かたいものが噛みにくい
□歯が長くなったような気がする
□前歯が出っ歯になったり、歯と歯の間に隙間ができて、食べものが挟まるようになった
【診断】
■3項目あてはまる。
歯周病と断定はできませんが、油断は禁物。毎日のブラッシングと、歯科医院での定期的な検診で予防に務めましょう。
■6項目あてはまる。
歯周病が進行している可能性があります。歯科医院で相談しましょう。
■全項目あてはまる。
歯周病がかなり進んでいます。歯を守るためにも、すぐに治療をはじめましょう。
歯周病は、プラーク(歯垢)がおもな原因
歯周病は、虫歯と同じく、口の中の細菌によって起こる「バイオフィルム感染症」のひとつです。バイオフィルムとは細菌と細菌がつくり出した菌膜のことで、排水溝の〝ぬめり〟など、水のあるところでは大抵バイオフィルムを見ることができます。
一般に「プラーク」と呼ばれる口内の歯垢もそのひとつで、私たちの口の中には実にたくさんの細菌が棲んでいて、歯に付着して繁殖しているのです。塊となったプラーク1㎎には、約5〜10億個の細菌がいるといわれています。
プラークはその80%が水分で、残り20%の有機成分のうち70%を細菌が占めています。歯の表面には、唾液成分の糖タンパクが「ペリクル」と呼ばれる薄い皮膜をつくっています。ここに口内の細菌が付着すると、悪玉菌のミュータンス菌(虫歯菌)がショ糖を使って粘着質の物質をつくり出して表面を覆います。この状態が、プラークやバイオフィルムと呼ばれるものです。栄養も水も豊富で、温度もおよそ37℃と細菌の増殖に適した口内で増殖したプラークは、歯肉に炎症を起こします。これが歯周病のはじまりです。
母親の愛情表現も感染症の原因のひとつ?
生まれたばかりの赤ちゃんは菌を保有していませんし、虫歯や歯周病とは無縁です。しかし、母親の愛情表現のキスや食器の共有などによって菌が移り虫歯や歯周病の原因となります。乳歯が生えそろう3歳ころまで極力虫歯菌などの感染を防ぐことができれば、それ以降は口の中の常在菌が守ってくれるようになり、虫歯になりにくい体質をつくることができるといいます。できる範囲で、赤ちゃんに菌を移さないように、ご両親はもとより家族の方は虫歯の治療や予防に心がけてください。
犬などペットとの相互感染にも要注意!
また、因子のひとつとして最近注目されているのが、ペットからの感染です。歯周病は、人間だけでなく動物にも発生する病気です。とくに、ペットとして私たちの身近にいる犬や猫は、人間と同じく高齢化が進み、歯周病の発症率が高まっています。これは犬の調査ですが、ある調査では8割近くの犬に、プラークや歯石沈着などの歯周病予備軍といえる症状がみられたといいます。動物は、痛みや違和感を自分で訴えることができないうえに、人間に比べてプラークが歯石化するスピードが早く、重症化しやすい傾向があります。調査でも、1歳の時点で約6割の犬に歯周病予備軍の症状がみられたといいます。
さらに人と犬、両方の歯周病の原因となる細菌として、ポルフィロモナスが知られています。人間の口内ではpg菌といわれるポルフィロモナス・ジンジバリス、犬の口内ではポルフィロモナス・グラエ菌(以下グラエ菌)が歯周病のおもな原因となっているといわれます。
近年の研究では、約70%の犬がグラエ菌を保有しており、これらの犬の飼い主の16%の口内から同じグラエ菌が見つかったというが報告もあり、人間と犬が互いに歯周病をうつし合っている可能性が指摘されています。人が食べていたものをペットに与えたり、犬が飼い主の口をなめたりするスキンシップが、感染ルートになっているのではないかというのです。かわいいペットとの触れ合いは癒しのひとつですが、キスや口移しなどの不適切なコミュニケーションは避け、触れ合ったあとには手を洗う習慣をつけましょう。
また、ペットの口腔ケアにも気を配ります。ペットの口内を清潔にして歯周病予防をすることは、ペットの健康を守るだけでなく、人体への悪影響を予防することにつながります。
歯周病は生活習慣病のひとつ
歯周病には、噛み合わせや歯の形態、義歯を含めた歯科治療の有無の状態などいくつもの要因があり、上記のことも歯周病を進行させる因子となります。
これらの因子が重なるほど歯周病リスクが高まると考えられ、日々の生活習慣が要因となることから、歯周病は生活習慣病のひとつに数えられています。
歯周病の因子には自分でコントロールできることも多いので、歯磨きや歯ぐきのマッサージなどの口腔ケアや定期検診などを欠かさないようにすることが大切です。
歯周病を悪化させるおもな要因
・歯ぎしり、食いしばり、噛みしめ
・合わないクラウン(被せもの)や義歯
・不規則な食習慣
・喫煙
・ストレス
・糖尿病、骨粗しょう症、リウマチなどの全身疾患
・ホルモンバランスの乱れ
・遺伝
・家族間感染
歯周病の発症から歯が抜け落ちるまで!
口内でできたばかりのプラークは、レンサ球菌などの善玉菌も多く、粘りもありません。しかし、プラークができて3日以上経つと、悪玉菌が増えて病原性を現すようになります。
さらに、プラークが歯についたまま2週間以上経つと、唾液などに含まれるリンやカルシウムを吸収して石灰化し、セルフケアでは除去できない歯石となってしまうのです。口腔ケアが行き届かずにプラークが歯と歯ぐきの境目(歯肉溝)にたまると、プラークがバリアとなって酸素を通さないため、中は酸素のない状態となります。
すると、歯周病の原因となる酸素を嫌う嫌気性の細菌が活性化して、これらの菌が出す毒素や酵素によって粘膜が炎症を起こします。好気性菌の中にも病原性のある菌はありますが、嫌気性菌がつくり出す毒素や酵素は好気性菌のものより強力なため、嫌気性菌が増えることで炎症が加速します。
とくに、炎症が進んで歯ぐきに潰瘍ができ、血が出るようになると、後述する〝極悪御三家〟のひとつ、Pg菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)が血液をエサにして、数百倍から数万倍にまで一気に増加します。これにより、歯ぐきの周辺が赤くなったり腫れたりしますが、初期の段階では痛みもなく、自覚症状はほとんどありません。
発症までに長い時間がかかり、痛みなどがないまま徐々に進行していく——。これが、歯周病が〝サイレントディジーズ(沈黙の病)〟と呼ばれる所以であり、やっかいなところです。
そして、「歯周ポケット」と呼ばれる歯肉溝の隙間から、菌の一部が歯ぐきの組織内へと侵入します。もちろん、私たちのからだにはこうした〝異物〟の侵入に対する免疫機能があり、好中球やリンパ球、マクロファージなどの免疫細胞が集まってきて、侵入した細菌や毒素・酵素を取り込んで排除しようとします。菌を取り込んだ細胞は、菌の毒素によって死滅し、防ぎきれなかった細菌や毒素がさらに奥へと入り込むようになりますが、死んだ細胞から出た毒素をめがけてさらに免疫細胞が集まります。そして、これらの細胞から菌に対する「抗体」が生み出され、異物である菌を除去します。
さらに、好中球などから「炎症性サイトカイン(炎症の伝達物質)」と呼ばれるたんぱく質がつくられ、炎症反応を強めます。これにより骨を壊す破骨細胞が活性化し、歯を支えている歯の根のセメント質、歯槽骨、歯根膜などが溶けて歯がぐらつき、やがて脱落してしまうのです。
歯周組織の検査と進行度
歯周病は、歯の状態をみただけで進行具合がわかるわけでもありません。ブラッシング状態からプラークの付着状況、エックス線写真によって歯を支える骨の状態を調べるレントゲン検査などをおこない治療方針を決めますが、まずは歯周ポケットといわれる部分の深さを測り、歯肉の腫れ、出血の有無などをチェックするプロービング検査おこないます。
一般的に歯周ポケットは深くなるほど歯周病の症状が進んでいると考えられ、歯肉の入り口からメモリの付いたプローブ(探針)を差し込み、歯肉の入り口から隙間の底の部分までの距離を測定して重症度の判定にします。
Ⅰ期(歯肉炎)
Ⅱ期歯周炎(軽度)
Ⅲ期歯周炎(中度)
Ⅳ期歯周炎(重度)
プラークコントロールで歯周病を予防する
歯周病は歯を失う原因となる一方で、口腔ケアをきちんとおこなうことによってコントロールできる病気でもあります。
プラークコントロールとは、その名のとおり、歯や歯ぐきの表面にたまって歯周病や虫歯の原因となっているプラーク(歯垢)をできるだけ取り除き、歯への付着を防ぐようにプラークの増殖を抑制・管理することです。プラークコントロールの基本となるのは、自分自身でおこなう毎日の歯磨きです。
歯周病や虫歯の予防のためには、プラークを完全に除去してゼロにできればよいのですが、それは不可能です。そこで、できるだけプラークを減らし、からだに悪影響を及ぼさない程度にコントロールしておくことが必要になるのです。細菌が悪さをして、歯周病や虫歯を発生するかどうかは、細菌の量とからだの抵抗力(免疫力)のバランスによります。もちろん、細菌が少なく免疫力が強いことが理想ですが、細菌が少なくても免疫力が落ちていれば細菌に負けてしまいますし、多少細菌が増えても免疫力が強ければ細菌を打ち負かすことができます。
免疫力を高めることは難しくても、細菌を減らすことは簡単です。毎日の歯磨きの方法や習慣を少し変えるだけでよいからです。ただし、毎日丁寧に歯磨きをしていても、歯磨きだけで取れるプラークは6割程度といわれます。デンタルフロスや歯間ブラシを使えば、プラークの除去率は2割以上アップしますから、歯磨きの精度を上げるためにも、こうした補助道具の活用をおすすめします。
歯科医の定期検診や予防歯科では、治療メニューの中にブラッシング指導が含まれていますが、ぜひ、正しいブラッシング方法を覚えて口内トラブルを予防してください。そして、自分で取りきれないプラークや歯石は、3~4ヶ月に1回は歯科医師や歯科衛生師によるプロフェッショナルケアで取ってもらうようにしましょう。
毎日の正しいブラッシングで歯ぐきがよみがえる!
毎日のプラークコントロール、すなわち歯磨きで大切なことは、歯周ポケットに潜むプラークを除去することです。
よく、歯磨きは「1日3回毎食後に」おこなうようにいわれますが、無理なときにはⅠ日2回、もしくはしっかり磨けば1日1回でも問題ありません。ただし、口の中に残った食べかすは、食後30〜40分ほどで菌の塊となり、徐々に粘着性が出て固くなります。そのため、毎食後歯磨きができない場合は、これらを丁寧に取り除く必要があります。
歯ブラシは、歯や歯ぐきを痛めないよう、鉛筆を持つような「ペングリップ」で軽く握ると、余分な力が入りません。磨くときは、力を入れすぎないよう、歯ブラシの毛先が変形しない程度に軽く小刻みに動かしてブラッシングします。
1カ所につき20回以上、歯並びに合わせて磨きます。
正しい歯の磨き方
ブラッシングには、歯ブラシを歯に直角に当てて磨く「スクラビング法」と、歯に対して45度に曲げて磨く「バス法」があります。
歯ぐきが健康な場合はスクラビング法でかまいませんが、歯周病がある人や歯周病予防には歯と歯ぐきの間を磨きたいのでバス法がよいでしょう。
一番奥の歯は磨きにくくプラークが残りやすいため、歯ブラシのつま先を斜めに入れて、歯の横からも磨くようにしましょう。
「奥歯の噛み合わせの面」「歯と歯ぐきの境目」「前歯の裏側」など、プラークがつきやすいところは、意識して磨いてください。
デンタルフロスの使い方
とりにくいプラークは、デンタルフロスや歯間ブラシを使うと効果的です。デンタルフロスは、ハンドル付きが使いやすく、歯ぐきを傷つけないように、左右の歯の表面に沿って当たるように数回動かします。どちらかというとはの隙間の狭い部分に使用します。
歯間ブラシは隙間が広い場合に使用し、歯肉を傷つけないようにゆっくりと歯間に挿入し、歯と歯ぐきの境目にブラシを当てて前後にゆっくりと数回動かします。歯の隙間は人によって違うため、隙間にあった大きさの歯間ブラシを選ぶようにしましょう。ブラシを挿入したときに、「きつめ」よりも「ゆるめ」を選ぶのがポイントです。
とくに、歯と歯の間は歯ブラシのあとにデンタルフロスを使うことでプラークの除去率が1.5倍になります。ただし、歯や歯ぐきの状態によっては違う方法で磨いたほうがよい場合もあるため、歯科医に相談するとよいでしょう。
セルフケアで取れない歯垢はクリーニングでスッキリ!
どんなに丁寧に歯磨きをしていても、磨きにくい場所ではプラークが蓄積し、バイオフィルムを形成してしまいます。このような汚れを歯科医や衛生士のクリーニングで取り除くことで、歯周病や虫歯を予防することはもちろん、口臭を防ぎ、コーヒー・紅茶・赤ワインなどによる着色や、タバコのヤニなどで黄ばんだ歯をきれいにすることができます。
歯科医院でおこなう歯のクリーニングは「PMTC」と呼ばれます。PMTCとはProfessional Mechanical Tooth Cleaningの略で、歯科医師や歯科医師といった専門家が、専用の器具を用いておこなうプラークコントロールです。
クリーニングをおこなう際には、まず口腔内をチェックし、PMTC用の歯面清掃剤を使用して、ハンドスケーラーでエナメル質の歯面や歯周ポケットの浅い部分に付着したプラークや歯石を取ります。そして、超音波の振動によって狭いところについている歯石やプラークを取り除くことができる「超音波スケーラー」を使って磨きます。歯の状態に合わせて研磨剤を使い分け、歯の表面や歯間部など、部位に応じた器具を使用して磨き、歯の表面についた着色やヤニをきれいにして、歯の表面を滑らかにします。
実は、歯石は歯の表面に密着しているのではなく、歯の表面を〝溶かして〟ついています。そのため、歯石を取った歯の表面はきれいな平面ではなく、よく見るとデコボコしています。
そのままにしておけばデコボコになった部分に再びプラークが溜まり、歯石になってしまうため、それをきれいにしなければなりません。PMTCを定期的におこなうことで、歯の表面がつるつるになって汚れがつきにくい状態になり、口内のトラブルを防ぐことができます。
仕上げには、歯を強化するフッ素を塗布し、家庭でのブラッシング指導などのアドバイスをおこないます。歯科医院によっては、歯ぐきのマッサージなどをおこなうところもあります。
PMTCは3〜4ヶ月に1回の間隔でおこなうのが一般的ですが、歯の状態や着色の程度、唾液の量、生活習慣などによって頻度も変わります。歯科医院で相談して、自分に合った頻度でおこないましょう。
失われた組織を再生させる「歯周組織再生療法」
歯周組織再生療法は、歯周病によって失われた歯を支えている骨などの周囲の組織を、薬剤や人工膜を使って回復する治療法です。本来、一度失われた組織が自然に治癒(再生・回復)することはなく、「歯肉切除術」などの治療によって進行を止めても歯が長くなったように見えたり、歯に隙間が開いてしまったりしていました。それでも「なんとか自分の歯を残したい」という人のために、破壊された歯の支持組織を再生させ、歯をできるだけ元の状態に戻す治療法です。ただし、あまりにも進行した歯周病では難しい場合もあります。
歯周組織再生治療の種類
①組織の再生効果のある「歯周組織再生剤」を使用するもの
②GTRという人工膜を使って組織の再生を促す「歯周組織再生誘導法」
③患者自身の骨を採取して、移植する「骨移植術」
があり、患者さんの口内状況に合わせ、場合によっては複数の方法を組み合わせながら、より効果が見込める治療法を提案・施術します。
①の歯周組織再生剤を用いた方法では、歯肉を切開して、歯根膜の再生能力を活性化する薬剤を入れて骨などの組織を再生させます。「リグロス」という歯周組織再生剤を用いる方法と、「エムドゲイン」というゲルを用いる方法があります。
リグロスは、やけどや床ずれなどの治療にも使用されている、骨や筋肉などの細胞の増殖や分化を促して成長させるたんぱく質を主成分としています。さらに、リグロスには骨細胞を刺激して、血管を新たにつくる能力(血管新生作用)を増強するはたらきもあり、歯ぐきやあごの骨といった歯を支える組織を再生することができます。リグロスを用いた歯周組織再生療法は2016(平成28)年9月からは保険適用となりました。
②の歯周組織再生誘導法は、「GTR法(Guided Tissue Regeneration Technique)」とも呼ばれます。歯周病によって破壊・吸収された歯周組織は、原因となっている汚れを取り除くと再生しようとします。そこで、歯周ポケット清掃後にメンブレンと呼ばれる特殊な膜を歯肉と溶けたあごの骨の間に置き、その遮蔽スペースで歯周組織の再生を促す方法です。
しかし、GTR法は、条件によっては再生効果が高いものの、適応症が限られること、手術が歯周組織再生剤を用いる場合に比べて難しいことなどから、近年使用機会が減っています。
③の骨移植術は、骨移植材料で歯周病による骨欠損部位に応用することで、骨成長の促進が期待されます。骨移植に用いられる骨には、大きく分けて「自家骨(自分の骨)」と「人工骨(自分以外の骨)」があります。自家骨の場合、自分の下あご(親知らずの部分)や頤(あご)骨(ぼね)(下あご前歯の根元)、ひざ、骨盤の骨などが用いられます。また最近は人工骨でも成功率が変わらなくなってきていることから、自家骨の割合は減っています。
骨移植は、インプラントを入れる土台となる歯槽骨が十分にないときにも用いられます。
歯を失ったときの〝第3の治療法〟インプラント
歯周病で、歯を失うことで「噛めない」「しゃべりにくい」「見た目が悪い」などの不具合が起きるため、これらをカバーするためにも治療をおこないます。これまでは取り外し可能な入れ歯(義歯)や、失った歯の両隣の歯を削って人工歯をかぶせるブリッジが一般的でしたが、最近では第3の治療法としてインプラントを選ぶ人も増えています。
インプラントとは体内に埋め込む医療機器や部品の総称で、実は心臓のペースメーカーや人工関節、シリコンなどはすべて「インプラント」です。歯が抜けた場合に顎骨に埋め込
む人工歯根もインプラントのひとつで、正確には「歯科インプラント(デンタルインプラント)」といいますが、一般的に歯科インプラントのことを「インプラント」と呼んでいます。
インプラントの歴史はローマ時代から
インプラントというと新しい技術のように思われがちですが、紀元前3世紀のローマ時代の遺跡から、上あごに鉄製のインプラントが埋まっている人骨が見つかっていたり、インカ文明のミイラからサファイアの歯根が発見されるなど、非常に長い歴史があります。
その後も時代とともにさまざまな素材を用いたインプラント治療が試みられてきましたが、いずれも長続きするものではありませんでした。
現代のような治療法として確立されたのは、1952年(昭和27)年にチタンを骨の中に埋めると骨と結合することが発見されたことがきっかけです。1965(昭和40)には、ネジのようなスクリュータイプのチタン製のインプラントの臨床応用が開始され、骨と結合するインプラントの登場によって臨床成績は著しく向上しました。1980年代には世界中で使用が広まり、日本でも、1983(昭和58)年に治療が開始されています。
インプラントの基本構造
インプラントは、基本的に顎骨の中に埋め込まれる歯根部(インプラント体)、インプラント体の上に取りつける支台部(アバットメント)、歯の部分に相当する人工歯(上部構造)という3つのパーツで構成されています。
インプラント体に使われる材質はチタンまたはチタン合金で、骨と結合しやすいうえに、金属アレルギーを起こしにくいことでも知られています。しかし、アレルギーの可能性がまったくないわけではありません。金属アレルギーがある人はパッチテストや血液による検査を受けておくとよいでしょう。
「軽度高気圧濃縮酸素」がインプラント体の定着率をアップ!
インプラントの術式には、手術を1回だけおこなう「1回法」と、2回に分けておこなう「2回法」があります。
骨の量が十分にあり、硬い場合は1回法でおこないますが、骨量が少なく、骨がやわらかかったり骨移植が必要だったりする場合は2回法が用いられます。
1回法は、麻酔をしたあとにインプラント体を埋める部位の歯ぐきを切開して骨を露出させ、ドリルで穴を開けてワンピースインプラントを埋め込みます。
2回法は、1回法と同じようにインプラント体を埋め込んだあと、上部の穴にカバーをつけ、切開した歯ぐきを縫い合わせ、インプラント体と骨が結合するまで上顎でおよそ4〜6ヶ月、下顎で2〜3ヶ月ほど待ちます。そして、インプラント体と顎の骨がしっかり結合したことを確認したあと、2次手術をおこないます。
このように、インプラント手術にはさまざまな選択肢があります。
1回法は手術が1回ですむため患者への負担が少なく、治療期間も短いというメリット
がある反面、細菌感染のリスクが高くなります。
それに対し、2回法は患者の負担が大きく時間もかかりますが、細菌感染のリスクが低く、さまざまなケースに対応できるというメリットがあります。それぞれ
の口内状態に合わせた術式を選ぶことが大切です。
歯周組織の再生療法やインプラント手術、いずれの場合も、「軽度高気圧濃縮酸素環境」をつくる酸素ルームを併用することで、傷の治りが早く、インプラント体の定着率も向上すると考えられています。
軽度高気圧濃縮酸素状態が血液中の酸素を増やし、血流をよくすることがその原因と思われます。実際私が治療をする歯科医院でも、酸素ルームを導入してさまざまな効果があることを実感しています。
今後さらに研究が進み、軽度高気圧濃縮酸素環境の効果が広く一般にも知られ、多くの歯科医院にも活用されることを期待されています。
歯ぐきのツボマッサージで口内の不調を取り除く
歯周病の予防・改善には、ブラッシングとともに歯ぐきのツボマッサージが効果的です。
歯ぐきにも耳や足の裏のように全身につながるツボがあります。その数は40以上といわれ、毛細血管が多く、粘膜をじかに刺激できる口内は、ツボマッサージによる血流改善効果が現れやすい場所とされています。
さらに、ツボを刺激することで唾液も出やすくなり、歯ぐきの腫れや口臭予防のためにも効果的です。歯周病の予防改善はもとより、リラックス効果もあるので、就寝前の歯磨きに、歯ぐきのツボマッサージを加えてみるとよいでしょう。
ただし、やさしくマッサージしても歯ぐきからすぐに出血してしまう場合は、すでに歯周病にかかっている可能性がありますので、早めに歯科医にかかることをおすすめします。
歯ぐきのマッサージの仕方
①マッサージを始める前に歯磨きと手洗いをします。さらに、洗浄液や緑茶で口をすすぐとウイルスや細菌の殺菌能力を高めます。マッサージジェルを使用するとリラックス一層の効果が期待できます。
②中指の腹の部分で、歯ぐきの表面に小さく円を描くようにマッサージします。歯と歯ぐきの間や、歯ぐきのつけ根の部分など、上図にあるツボを意識しながら、前歯から左右の奥に向かって進み、歯ぐき全体をマッサージしていきます。
③次に、中指と親指で歯ぐきの表裏を挟み込むように圧迫しながら、歯ぐき全体をゆっくりとなぞっていきます。
④仕上げに中指で頬の内側を伸ばし、頬の粘膜のマッサージをおこないます。ほうれい線が気になる人は、頬の両側からほうれい線を伸ばすようにマッサージすると、ほうれい線を薄くする効果も期待できます。
⑤最後にしっかりと口をゆすぎます。マッサ―ジジェルを使用した場合はゆすがなくても大丈夫です。