歯周病と全身疾患の隠れた関係

さまざまな病気の黒幕は歯周病だった!?

 近年、歯周病とさまざまな病気との関係が明らかになり、口腔ケアや歯周病治療の重要性が再認識されています。病気によって体力や免疫力の低下を招くことで歯周病のリスクが高まる一方で、糖尿病や誤嚥性肺炎、脳血管障害、心疾患などの疾患が歯周病の影響により重症化する研究報告が次々と出て、歯周病がさまざまな病気の発症や重症化にかかわることがわかってきたためです。

詳しいメカニズムは解明中ですが、口内フローラのバランスがくずれることで増殖した歯周病菌が、唾液や血液を通して全身に巡り、病気を引き起こすと考えられています。

日本臨床歯周病学会では、歯周病の症状があり、なおかつ糖尿病や誤嚥性肺炎など歯周病と関連する全身疾患がある状態を「ペリオドンタル・シンドローム(歯周病関連全身疾患症候群)」と呼んでいます。

これは歯周病と関連して発症する病気を、医科と歯科が互いの垣根を取り払った視点で治療を考えようという意味で、歯科医の若林健史先生が発起人となり、提唱したものです。

歯周病は、日常生活における環境因子との関係やその罹患率の高さなどから、歯科疾患の中で唯一、生活習慣病として認定されている病気です。しかし、治療についてはこれまで、口腔内の問題として歯科治療に限られていました。

今後は歯周病を「全身の病の中のひとつ」の病気としてとらえ、からだ全体とのかかわりの中から歯周病治療を考えていくことが大切な時代になってくると思われます。

糖尿病と歯周病は表裏一体

糖尿病は、血糖値を下げる働きのあるインスリンが十分に働かないために、血液中の糖(血糖)の濃度が慢性的に高くなってしまう病気です。食事によって血液中の糖が増え、血糖値が高くなると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、増えすぎた糖が細胞内に取り込まれるよう働きかけます。

健康な人の場合、このインスリンの働きによって、一時的に上昇した血糖値も数時間後には食事の前の状態に戻ります。しかし、膵臓機能の低下からインスリンの分泌量が少なくなったり、肥満などの要因で分泌されてもうまく働かなくなると、血糖値が高い状態が続いてしまいます。

糖尿病の中でも95%を占めるといわれる2型糖尿病は、肥満や運動不足、ストレス、暴飲暴食など、生活習慣の乱れがおもな原因となって起こる代表的な生活習慣病です。

糖尿病の初期は自覚症状がほとんどないため、病気に気づかなかったり、治療をおろそかにしてしまう人も少なくありませんが、病気が進行するとさまざまな合併症が起こります。

なかでも「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経障害」は「三大合併症」といわれ、ひどくなると失明や透析、手足の切断に至る可能性があります。これらは糖尿病だけに起こる合併症で、毛細血管の障害が原因となることから「細小血管症」などとも呼ばれています。反対に、脳梗塞や心筋梗塞など冠動脈などの太い血管に起こる障害を「大血管症」と呼びますが、これらはいずれも高血糖が長期間続いたあとに起こる慢性の合併症です。

歯周病は糖尿病の合併症のひとつ

 糖尿病の患者には歯周病を抱えている人が多く、歯周病にかかっていると血糖値のコントロールが難しくなり、糖尿病を悪化させてしまうことなどから、以前から〝歯周病は糖尿病の合併症のひとつ〟といわれてきました。

そもそも糖尿病には、歯周病だけでなく、ほとんどすべての歯科疾患が合併する可能性があります。糖尿病では唾液の分泌量が減少したり、唾液中のブドウ糖濃度が上昇することでプラークが形成されやすく、さらにブドウ糖が細菌の栄養源となって口内のpHを低下させ、虫歯が発生しやすくなるためです。

進行した歯周病がある場合、出血や膿が出ている歯周ポケットから炎症によって生じた物質やサイトカイン(おもに免疫細胞から分泌されるたんぱく質)が血液中に入り、全身をめぐります。血管に入った細菌は免疫細胞の働きで死滅しますが、残った毒素は脂肪細胞や肝臓からサイトカインの一種である腫瘍懐死因子のTNF-αの産生を促進します。

TNF-αが増えると、インスリンがうまく働かず、その結果糖尿病を招き、悪化させてしまうのです。

最近では、歯科医院で炎症の原因となっている歯石を取り除き、抗菌薬を用いた歯周病治療とプラークコントロールをしっかりおこなうことで、血液中のTNF-α濃度が低下するだけでなく、血糖値のコントロール状態を示すHbA1c値も改善することが報告されています。

歯周病治療によって歯肉の炎症を改善できればインスリン抵抗性も改善し、血糖コントロールにつながることが、多くの臨床研究で明らかになってきたのです。

しかし、こうした例の一方で、すべての症例で歯周病治療が血糖値の低下につながるわけではないことも指摘され、今後のさらなる研究が待たれています。

歯周病菌が誤嚥性肺炎を引き起こす

誤嚥性肺炎は、誤って気管に入ってしまった唾液や食べものと一緒に口内の悪玉菌の歯周病菌などが気管支や肺に入り、気管や気管支の粘膜、肺の中で炎症を起こす病気です。

嚥下が正しく行われている場合は、食べ物が唾液と混じって食塊をつくり、飲み込む瞬間に気管に入らないように、軟口蓋が上がり、咽頭蓋が下がり、気管をふさぎ食べ物が食堂に入ります。

しかし、唾液や食べものが誤って気管に入った場合でも、本来ならば反射的にむせることで異物を吐き出しますが、からだが弱っていたり高齢だと嚥下反射の低下によって吐き出すことができず、誤嚥を起こしやすくなります。さらに、免疫力も低下していることも多く、肺に入った細菌によって細菌性の肺炎を招くリスクが高くなります。

誤嚥性肺炎は、一般的な肺炎と違って咳や発熱、膿などの典型的な症状がありません。そのため、「なんとなく元気がない」「食欲がない」「のどがゴロゴロする」などと思っているうちに、気づいたら肺炎が進行していたということもあります。

さらに、一度誤嚥性肺炎を起こすと気道の粘膜が傷ついて異物に対する反射機能が鈍くなり、誤嚥をしても物を吐き出せず、肺炎のリスクが高まる悪循環に陥りやすいのも特徴です。

こうした誤嚥性肺炎も、正しい口腔ケアによって予防することが可能です。さらに、軽度高気圧濃縮酸素を微小循環にいきわたらせることで、改善効果も期待できます。

かつては誤嚥性肺炎は「肺炎」として分類されていました。しかし、厚労省は高齢者に多い誤嚥性肺炎を2017(平成29)年から肺炎と分けて分類し、その結果、現在肺炎は日本人の死亡原因の第5位、誤嚥性肺炎は第7位となっています。

誤嚥は睡眠時にも起きる

 誤嚥が起こるのは食事中に限りません。安静時や睡眠中にも起こることがあります。

反射機能が低下した高齢者の場合、約70%の人が睡眠中に誤嚥を起こしているともいわれます。脳血管障害やパーキンソン病、アルツハイマー型認知症などの疾患がある人は、のどの神経や筋肉がうまく働かない嚥下障害があることが多いので、注意が必要です。

この肺炎の場合、原因となる菌の大半が歯周病菌であり、とくに要介護者は睡眠時の誤嚥を繰り返すことが多いといわれます。

要介護者の場合、口内のセルフケアがままならないことも多く、誤嚥が起こると肺炎が重症化しやすくなっているといわれます。

また、自分で食事を摂れなくなってチューブやカテーテルを使う経管(けいかん)栄養(えいよう)をおこなっている場合も、栄養物の嘔吐や胃の内容物の逆流などが原因となって、誤嚥から肺炎を起こすことがあります。胃に直接栄養を送る胃ろうの場合は、経鼻経管栄養より肺炎の発症が少ないといわれますが、それでもまったくないわけではありません。肺炎を重症化させないためにも、たとえ口から食事を摂ることはできなくても口腔ケアを欠かさないことが大切です。

誤嚥性肺炎を発症する3大リスク因子とは!

①口腔・咽頭部の微生物(細菌)の増加

口腔ケアが不十分で口腔内の清潔を保てず細菌が増加したり、加齢などによって唾液の分泌量が減少し、口内の自浄作用が低下して歯周病を起こすことでリスクが高まります。

②免疫力の低下

糖尿病や加齢、高齢者に起こりやすい低栄養などの要因があります。バランスのよい食事と適度な運動、質のよい睡眠をとるなど、生活習慣を見直し、なるべくストレスのない生活を心がけましょう。

③口腔機能の低下

高齢者の場合、全身の筋力低下とともにあごや口まわりの筋力も低下します。さらに、歯周病による歯の喪失によって咬合力や咀嚼能力が低下するだけでなく、摂食機能の低下と口内環境の悪化は低栄養を招き、合併症のリスクを高めてしまいます。

誤嚥性肺炎の予防

 肺炎は、歯科医などが週1〜2回、専門的な口腔ケアをおこなうことで、その罹患率が39%、死亡率も53%低くなったという報告があります(米山武義氏調査報告:一般社団法人日本訪問歯科協会HPより抜粋)。しかし、当然、口内を清潔の保つ日頃のセルフケアも大切です。

首の周辺の緊張をとり、リラックスさせることで、嚥下時の筋肉運動をスムーズにし、嚥下障害や誤嚥障害を予防する効果が期待できます。

とくに喫煙者、高齢者、ストレスや疲労がたまっていたり、生活が不規則な人は免疫力が低下し、口腔機能も低下しがちですが、食べものを口に入れずにできるので、ひとりで安全におこなうことができます。ただし、嚥下障害の症状が進んでいる場合は、病院など、専門的の先生のもとで指導を受けてください。

首のトレーニングでは、肩の力を抜いて、首をゆっくり前後・左右に動かし、首筋をしっかり伸ばします。回数などはそれぞれの体力などに応じて無理のない程度にし、最低毎日1回は続けてください。

・前後に曲げる

・左右に値切る

・横に曲げる

・ぐるっと回す

上記のようなトレーニングをおこなったうえで、食事の際には次のようなことに気をつけます。

食事の際に気をつけること

・いすに深く腰掛け、正しい姿勢で食べる

・テレビを観ながらなどの「ながら食事」はやめる

・急がず、ゆっくり食べる

・肉などは小さく切ってから食べる

・少量ずつ口に入れ、よく噛む

・口の中のものを飲み込んでから、次のものを口に入れる

脳卒中・心筋梗塞を引き起こす動脈硬化にも歯周病菌の影

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりして脳に血液が回らなくなり、脳が障害を受ける病気の総称です。その原因により、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の動脈が破れる「脳出血」、脳動脈にできたこぶ(脳動脈瘤)が破れてくも膜の下に出血する「くも膜下出血」などがあります。脳細胞が損傷を受けた部位によって、頭痛やめまい、吐き気、麻痺、言語障害など、さまざまな症状を現すのが特徴です。

一方の心筋梗塞は、心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化で硬くなり、心臓に十分な血液を送ることができなくなって心不全を引き起こしてしまう、心疾患のひとつです。突然胸に激痛が走り、突然死の原因ともなる恐ろしい病気ですが、前段階である狭心症の段階で治療すれば予防も可能です。脳卒中と心筋梗塞は、どちらも生活習慣病などによる動脈硬化が主要な原因となっています。

血管が硬くなり、弾力がなくなる動脈硬化は、脂肪分の多い食事や運動不足、ストレスなどの生活習慣が犯人とされていますが、健康な人でも加齢とともに起こる〝血管の老化現象〟です。動脈硬化のなかでも、大動脈や脳動脈、冠動脈などの比較的太い動脈に起こるのが「粥状アテローム硬化(アテローム動脈硬化)」です。

血管の壁などに血液中の悪玉コレステロール(LDL)などが沈着してドロドロのアテローム性プラーク(粥状硬化巣)となり、その蓄積によって血管を詰まらせたり、あるいはこのプラークが破裂・崩壊して血液と混じり合って血栓をつくり、脳卒中や心筋梗塞を引き起こすといわれます。

そして、この動脈硬化にも歯周病菌がかかわっていると考えられています。歯ぐきから血管内に侵入した歯周病菌が血管内でアテローム性プラークの形成にかかわり、動脈硬化を促すというのです。

歯周病菌は動脈硬化のリスクを高める

 歯周病との関連に関して、心疾患がある患者のプラークには歯周病菌が存在していることが判明しているほか、歯周病の人は心血管疾患の発症リスクが1・15〜1・24倍高まるといわれます(社団法人日本歯科衛生士会・歯科衛生だより)。

また、口の中に歯周病菌のP.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)が多いと動脈硬化のレベルをみるIMT(頸動脈壁の内側中膜の厚み)が厚く、歯周病治療によってP.g菌が減るとIMTの厚みが減少したという報告もあります。

さらに1147名を対象に、歯周病と心筋梗塞・狭心症の関係を18年間追跡したところ、歯周病が重度(歯槽骨の吸収度が20%以上)のグループは、歯周病が軽度(歯槽骨の吸収度が20%以下)のグループに比べて心臓発作を起こすリスクが2.8倍だったとことがわかりました。

同じように、歯周病と脳血管疾患の関係について9962名を対象に18年間追跡した研究では、歯周病のある人はない人に比べて1・66倍、大脳血管疾患にかかるリスクが高く、脳梗塞では、歯周病の人はそうでない人の2.8倍なりやすいというデータもあります(大阪歯科大学梅田誠主任教授論文)。

歯周病菌が認知症の進行を加速する!

認知症の高齢者は年々増加し、2025(令和7)年には65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれています。認知症にはいくつかのタイプがありますが、その中でも約7割を占めるとされるのが、アルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというたんぱく質が蓄積した「老人斑」や、神経細胞内のタウたんぱくがリン化した「神経原線維変化」が原因となって、記憶を担っている海馬の部分から萎縮が始まり、だんだんと脳全体に萎縮が広がって認知機能が低下していく病気です。

はじめのうちは加齢による物忘れと似たような症状が現れますが、進行するうちに今まで日常生活でできていたことが少しずつできなくなっていきます。新しいことが記憶できない、記憶が抜け落ちる、時間や場所がわからないなどの症状とともに、次第に食事や入浴、着替えなどのADL(日常生活動作)がおぼつかなくなり、QOLが著しく低下し、やがて寝たきりになってしまいます。

歯周病と認知症に関する研究

 認知症と歯周病の関係については、アメリカの大学の研究チームが、アルツハイマー型認知症患者の脳内で歯周病菌のP.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)を確認したのに続き、マウスの口内にP.g菌を感染させたところ、6週間後には脳内でP.g菌が確認され、脳内のアミロイドβも著しく増加したと報告しています。

日本でも、さまざまな研究が進められていますが、日本大学歯学部の落合邦康特任教授(口腔細菌学)のチームによる研究もそのひとつです。アルツハイマー型認知症の発生機序については、いまだ確定的なものはないものの、体内の酸化反応が組織や細胞に危害を与えるという「酸化ストレス説」が有力とされています。落合教授らのチームは、歯周病菌によってつくられる「酪酸」という微生物が歯周細胞内に取り込まれると、鉄分子(ヘム)、過酸化水素、遊離脂肪酸が過剰に産出され、酸化ストレスによって歯周細胞が破壊されることに注目、健康なラット3匹の歯肉に酪酸を注射し、6時間後に海馬や下垂体、大脳、小脳を調べると、それぞれの部位で酸化ストレスが上昇していました。

なかでも記憶をつかさどる海馬での酸化ストレスがもっとも多く、鉄分子は平均79%、過酸化水素83%、遊離脂肪酸81%と濃度が上昇し、細胞の自然死といわれるアトポーシスを誘導するたんぱく質分解酵素カスパーゼは、平均87%の濃度上昇がみられました。さらに、アルツハイマー型認知症の脳神経細胞内で過剰に増えるタウたんぱく質も、通常のラットに比べて42%増加したのです。

歯周病患者の歯周ポケットからは、約30種類もの歯周病の原因菌が酪酸をつくり出し、通常の10〜20倍もの酪酸が検出されています。これらの酪酸は、健康であれば歯周ポケットにとどまっていても、歯肉に炎症があると組織から血管に入りこんで全身を巡り、長期間にわたって脳内に取り込まれると、アミロイドβがたまって脳が萎縮し、アルツハイマー病の発生リスクを高める可能性があるといわれています。

歯周病菌が認知症を悪化させる仕組みを解明

 最近では、九州大学や北京理工大学(中国)などの研究チームが、アミロイドβが脳に蓄積して記憶障害が起こる仕組みを解明して話題となりました。実験では3週間、マウスの腹部に歯周病菌を直接投与して感染させて正常なマウスと比較したところ、歯周病菌に感染したマウスの脳血管の表面ではアミロイドβを脳内に運ぶ受容体が2倍に増えていただけでなく、アミロイドβの脳細胞への蓄積も10倍に増えており、歯周病菌がアミロイドβの脳内への蓄積を加速させてしまうことが明らかになりました。

また、暗い部屋に入ると電気ショックを受けることを学習させた記憶実験では、正常なマウスが5分間、明るい部屋にとどまり続けたのに対し、感染したマウスは約3分で暗い部屋に入ってしまい、記憶力の低下が裏付けられるなど、歯周病菌とアルツハイマー型認知症との関連性が証明され、歯周病の治療や予防で認知症の発症や進行を遅らせる可能性があることがわかりました。さらに、アミロイドβを運ぶ受容体の働きを阻害する薬を使えば、感染した細胞内を通るアミロイドβの量を約4割減らせることも確認されました。

歯周病治療と関節リウマチの関係

関節リウマチは、免疫の異常によって関節の腫れや痛みが生じ、進行すると骨や軟骨が破壊され、関節が変形してしまう病気です。とくに30〜50代の女性に多く、左右の関節で同時に症状が生じやすく、朝に関節の周囲がこわばるのが特徴です。

この症状には細菌やウイルスの感染やストレス、喫煙、遺伝などが発症に関与しているとされていますが、詳しい原因はわかっていません。

関節リウマチと歯周病は、ともにインターロイキン(IL-β、IL−6)やTNF-αといった物質が関与し、慢性的な炎症が続いて骨が破壊されていきます。

この2つの病気の関連については以前から報告されており、1917年にはシカゴ大学のフランクビリング教授が、その著書の中で、関節リウマチの発症原因が歯肉の細菌による感染であると報告しています。

口の中の細菌が関節内に移動し、関節リウマチの発症や進行に影響を及ぼすというのです。

歯周病のP.g菌が関節リウマチの発症に関与?

 また、イタリアのジェノバ大学の研究では、関節リウマチの関節が腫れるリスクについて、歯が全部揃っている(32本)人を1とすると、28〜31本の人は3.6倍、21〜27本の人は4.1倍、20本以下の人は8.1倍となり、歯が少ない人ほど関節が腫れるリスクが高まる結果となりました。また、歯が20本以下の人は、全部揃っている人に比べて5.3倍も朝のこわばりが起こるリスクが高いとされています。

さらに、関節リウマチ患者の約8割の血液中には、抗シトルリン化たんぱく抗体(抗CUP抗体)という、シトルリン化したたんぱくを認識する抗体が検出されますが、この抗体は、しばしば関節リウマチの発症に先立って検出されます。

歯周病菌のP.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)が現在知られている中で唯一、シトルリン化を起こす酵素を産生する細菌であることがわかると、歯周病の罹患がこの歯周病菌のもつ酵素による抗CCP抗体の産生を引き起こし、ひいては関節リウマチの発症につながっているのではないかと考えられるようになりました。

2000年代になると、歯周病治療をおこなうことで、関節リウマチの症状が改善される

ことがわかります。これにより、外科手術のような大がかりな治療をおこなわなくても、歯科医師や歯科衛生士による歯のクリーニングや歯磨きの指導といった、患者の負担の少ない治療で高い効果を上げていることが報告されています。

関節リウマチの患者は、指の関節の機能障害によって適切な歯磨きができにくいだけでなく、ドライマウスなどの要因から歯周病が進行しやすく、重症化しやすい傾向にあります。

リウマチのために自分で十分に磨くことができない場合は、電動歯ブラシを使ったり、洗口液を利用するなど工夫して、歯周病が進行しないように努めてください。

また、歩行困難による行動制限は、歯科の定期検診の機会の減少にもつながります。通院が困難な場合は、居宅療養管理指導や訪問歯科診療など、自宅での指導や治療を受けられるシステムもあります。リウマチを重症化させないためにも、歯周病を悪化させないようにすることが大切です。

妊娠中の歯周病は、放っておくと早産・低体重出産の原因に!?

 女性は思春期から妊娠・出産、更年期と、ライフステージごとにからだの変化が大きく、女性ホルモンの増減とともに体調も変わりやすくなります。とくに妊娠・出産時のホルモンバランスの変化は、口内環境にも大きな影響を与えます。妊娠によって増えた女性ホルモンのエストロゲンが歯肉の表皮を増殖させ、それがもうひとつの女性ホルモン、プロゲステロンの分泌によって垢となってはがれ落ちてプラークとなり、口内環境が悪化しがちです。さらに、つわりによる食生活の乱れや、口腔ケアが不十分になりがちなことなどが重なって、妊娠中は「妊娠性歯肉炎」を起こしやすくなるのです。

さらに、歯周病菌によって歯肉の炎症が進行すると、サイトカインが増加し、プロスタグランジンという物質の分泌を促します。通常は、出産の準備が整い、子宮でプロスタグランジンが分泌されることで分娩が始まります。しかし、歯周病によって炎症が広がり、プロスタグランジンの濃度が上がると、子宮の収縮を促して早産が引き起こされてしまうのです(低体重児出産)。早産だった母親の口内を調べると、重度の歯周病である割合が高くなっており、そのリスクは、歯周病のない妊婦の場合の実に7倍にも上るといわれます。これは、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字です。

羊水から歯周病菌と同じ菌が!

 妊娠中の歯周病は、胎児や出産にも悪影響を与える可能性があります。海外では、歯周病菌が胎児の死を招いたケースが報告されています。

母親は35歳のアジア人女性。39週と5日で突然胎動がなくなり、慌てて病院に駆け込んだところ、胎児はすでに息絶え、通常なら無臭のはずの羊水は猛烈な悪臭を放っていました。母親には妊娠性歯肉炎による出血があり、死産の3日前には風邪で発熱があり、激しい絨毛羊膜炎と臍帯炎も併発していました。汚れた羊水と胎児の様子から産科医は、死産の原因は膣からの感染だろうと考えましたが、詳しく調べてみると胎盤や臍の緒、そして胎児の肺や胃の中まで炎症を起こしており、母親の口内と同じ歯周病菌が発見されたのです。

このことから、母親が発熱したわずか3日間の間に、母親の歯周ポケットにいた菌が血液から胎盤を通って胎児に達し、敗血症を起こしてしまったと考えられています。

妊婦は歯科治療を済ませよう!

 また、妊娠中は、薬の副作用を気にして歯の治療ができないと考えている妊婦も多いようですが、痛みのために十分な食事が摂れず栄養不足になったり、歯周病を放っておくほうが、胎児に悪影響を及ぼす場合もあります。つわりなどで思うように歯を磨けないときは、水分をしっかり摂り、唾液の分泌を促し、できるだけ菌の繁殖を抑えるように心がけましょう。また、出産後は虫歯菌が母子感染する可能性もあるため、できるだけつわりが治まる4〜5ヶ月頃には歯科検診を受け、比較的体調が安定しているうちに必要な歯科治療をすませておくことをおすすめします。

口呼吸や睡眠負債を促す睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は、文字通り眠っている間に何度も呼吸が止まる病気です。英語のSleep Apnea Syndromeの頭文字をとってSAS(サス)とも呼ばれています。一晩の睡眠中に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上、それぞれ呼吸が10秒以上止まる無呼吸がみられる場合は、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。多くの場合、無呼吸とともにいびきが認められますが、どちらも睡眠中のことで本人が気づきにくく、家族の指摘によってわかることも多いようです。

SASは、呼吸が止まることで血中の酸素が不足し、さまざまな症状を引き起こします。

たとえば、SASの人は上気道が狭まっているために口呼吸になりがちですが、口呼吸をすると口の中が乾きやすくなり、唾液による自浄作用ができずに口内の細菌の活動性を高めます。それによりプラークがたまりやすくなって、歯周病の要因となるのもその一例です。

夜中に何度も目が覚めたり、朝起きると頭痛がしたり、昼に眠気を催すのも代表的な症状です。さらに、酸素が不足することで心臓や肺、循環器系にも負担がかかり、高血圧や心臓疾患、脳血管障害などを発症する人も多く、放っておくと命にかかわることもあります。

実際、SASの人が深夜0時〜6時までに心臓が原因の突然死に襲われるリスクは、そうでない人に比べて2・57倍高いと報告されています。そのため最近では、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症の〝死の四重奏〟にSASを加え、〝死の五重奏〟といわれることもあります。SASには、肥満などにより上気道(喉)が塞がってしまうことによる「閉塞型」(OSAS)と、脳や神経などの異常による呼吸中枢機能の低下により、呼吸筋の運動が停止する「中枢型」(CSAS)と、閉塞型と中枢型が混ざっている「混合型」の3つのタイプがあります。なかでももっとも多いのが「閉塞型」で、SASの9割程度がこのタイプだといわれます。肥満が原因となっている場合は、減量することで症状が軽減することが多いため、食生活や運動などの生活習慣の改善を心がけます。

CPAPが症状の改善に効果的

 「閉塞型」に有効な治療法として、現在もっとも普及しているのが、CPAP(シーパップ)と呼ばれる経鼻的持続陽圧呼吸療法です。これは、鼻に装着したマスクから適切な圧力で持続的に空気を押し込むことにより、睡眠中に緩んだ筋肉で気道が塞がれてしまうのを防ぎ、睡眠中の呼吸をサポートする方法です。

これにより酸素を十分に取り入れられ、睡眠の質が改善されて昼間の眠気がなくなるとともに、心疾患の予防や死亡率の低下に効果があります。

軽度の場合は、スリープスプリントと呼ばれるマウスピース(口腔内装置)による治療をおこないます。この方法は、下顎を上顎よりも前に出すようにマウスピースで固定することで上気道を広く保ち、いびきや無呼吸を防ぎます。マウスピースは装着も比較的簡単で、取り外しが可能なため、患者への負担が少ないことが特徴です。

歯周病除菌の「ジスロマック」

酸素ルームに入ることで、歯周病の予防・改善の有効性があることはおわかりかと思いますが、歯周病除菌のために「ジスロマック」という薬が効果がるので紹介しましょう。

ジスロマックは1日1回2錠、3日間の服用で、歯周病の嫌気性菌に対して強い抗菌力を発揮する抗生物質です。ジスロマックには、「ファゴザイトデリバリー」と「クオラムセンシング遮断」という特殊な性質があります。

ファゴザイトデリバリーとは、腸管で吸収されたジスロマックが、病原体などを取り込んで処理する食作用をもつファゴザイトという免疫細胞に取り込まれて感染部位まで運ばれ、感染微生物を貪食します。

すると、ファゴザイトは感染部位でジスロマックを放りだし、薬剤濃度が血中の200倍程度に高まった状態が長期的に続き、効果を発揮するというものです。これにより、感染局所に大量に集結した薬剤成分が、より強く、長期的(7日〜14日)に抗菌力を発揮します。

もうひとつのクオラムセンシング遮断とは、細胞同士のコミュニケーション(クオラムセンシング)を、コミュニケーションに用いられる物質を破壊することで遮断し、バイオフィルムの形成を阻害する作用です。外科的治療を伴わず、歯周病への効果が非常に高いジスロマックですが、歯周病菌だけでなく腸内フローラを破壊し、腸内環境を悪化させる副作用があるため、使用は進行した歯周病に限っています。